七時起床。冷たい雨。冬に逆戻りしたような寒さだとテレビでは報じていたが、冬に戻ったというよりは、少々寒い春。あくまでも、春。日が延び花開くようになったというのに、冬という表現は今さらな気がする。マンションの向かいにある古い一戸建ての塀から飛び出すように伸びる桃の木が、雨に濡れて艶やかな花びらをずいぶんと落としていた。鳥の姿は見えない。どこぞで雨宿りしているのか。
春分の日。祝日だが、仕事。時折、気晴らしに「週刊モーニング」を読む。
夕方は、早めに仕事が終わったので新聞整理。朝日新聞の昨日の夕刊を読み返していたら、「モーニング」に連載中の「僕の小規模な生活」が紹介されていた。「なんと小規模な」と見出しが付けられている。確かにその通り。小規模な生活を克明に描く。うーん、私小説みたい。文学の世界では私小説って古くさくて終わっている感覚があるが、マンガで「私小説的」というと、何やら高尚なにおいがしてくるから不思議だ。……そうか、私小説マンガといえば、つげ義春か。巨匠だ。つげさん、最近はどうしているんだろう。
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(前略)中原は恐ろしい人。言葉については厳しく、無闇なことは口にできない。これまでも、それを何度も目にしていたので、彼の前では心して余計な口は聞くまいと慎んできていた。おかげで、これまでも----そうして、その後も----わたしは一度といえど、中原に言葉でいじめらえたことはなかった。それなのに、この時ばかりはバッハのあまりの偉大さについて口を滑らせてしまったのだ。しばし沈黙の時が流れる中で、中原は急に誰というともなく、「こいつは、時々こんなことをいうんだよな」と小声で呟いたなり、ゴロッと畳の上に横になってしまった。
「お前はクリスチャンか? 宗教というものは子供の時、親が決めてくれるのが一番だ。大人になってからは難しくて決められないよ」と言って、あの特徴のある大きな目でジロッと私をにらみつけた。
その目の恐ろしかったこと!
それは怒りとも憎しみともつかない、あるいは両方のこもった、激しいものの燃えている目、まなざしだった。後で阿部さん(引用者注:阿部六郎。吉田の高校時代の先生)は「あの時、中原は嫉妬してたんだ」と教えてくれた。阿部先生によると、彼は悩みに悩み抜いていて、それが私みたいに気楽に神様なんて口にできる若造に向けてのいら立ちの怒りになった。「あれは相手のいない苦しみなのだ」というわけである。
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