「群像」2019年1月号掲載。短篇小説特集「文学にできることを Ⅰ」に掲載。
中間管理職になったらしい独身女性が、秋祭りの季節にふと実家のあたりでこの時期になるとあちこちに祀る「シデ」を、そして夢に見た神楽の祭りを思い出し、帰省し秋祭りの夜神楽を見物する。彼女はそこで、接点がすっかりなくなっており、今日は来ないはずだった弟と再会する。だが弟は会場で突然姿を消し…
神楽の非現実感と祭りでにぎわう地元の子どもたちの無邪気な様子とが重層的に描かれ、その上に、さらに姉弟の思い出と今とが重なりあっていく。ラストに描かれる奇妙な喪失感は、そもそも喪失なんかしておらず、最初からそんなものは存在していなかった、すべては神楽の舞台の上での出来事のように現実ではなかったのではないか、とすら思わせるような、不思議な世界観。呑気さと浮遊感が共存した不思議な作品。