大学の教職を辞し、しばらくの間、瀬戸内海に面した半島にある街の旅館に滞在することになった主人公、迫村は、荒れ放題の植物園で出会った、(簡単にいえば)いい感じに枯れた老人と酒を酌み交わす。その夜、迫村は自身の影の声を聞く。
また、ある日迫村は偶然見つけたベトナム料理店で、国籍不明なウェイトレスと知り合う。娘と迫村は、この土地で新たな商売をはじめようという話で(英語で)盛り上がる。ちょっと引用。
「しかし、とにかく商売ってのはいいね。半島に漂着した人間は何か商売をやるべきだな。華僑的生きかただね」
「華僑にかぎらないわ。ビジネスっていうのは人生の本質でしょう。生きることの意味でしょう」
「そうか」
「そうですとも」
「要するに打って、買って、ということか」
「そう。人生ってそれよ。恋愛だってそうでしょう」
「売り買いかね」
「心を買うとか躯を買うとか、そういう意味の売り買いじゃないわよ。何て言ったらいいのかな、心や躯を、じゃなくて、心や躯で、それを通貨のようにやりとりして、他人との間に関係を結ぶことでしょう。経済的関係ではなくて、もっと深い、大事な関係を」