テロの翌々日(なのかな)、ようやくワシントンの母、そしてニューヨークの妹と電話で話すことができたエドワード。母国語である英語と現在暮らしている国の言語である日本語の間で揺れ動くようにしながら、少しずつ現実を受け入れていく。
ニューヨークの妹が見た9.11の現場の描写(というよりも視点なのかな)が秀逸。季節外れの淡雪のように見えたモノが、実は倒壊するセンタービルから舞ってきた灰だった……。引用。
「空の中をとめどなく流れてきて、ストリートとビルに静かに落ちている灰の中に、紙の切れ端も見分けられたんですよ」
「紙?」何のことかは、エドワードにはすぐに思い当たらなかった。
「ええ、紙。マンハッタンから、灰に交じって、何千もの窓から飛ばされた書類とメモ用紙が川を渡ってブルックリンの奥まで、二マイルも三マイルもの流れとなって降ってきていた」
It just kept coming
ひっきりなしにやってきた
妹の声は受話器の中で急に近づいてきた。
「灰におおわれたデッキにわたくしはひとりで立っていた。(中略)そしてわたくしの頭のすぐ上に紙が舞っていた。わたくしは手をのばして、蝶をつかむように紙の切れはしを手に取った。そこにはワープロで打たれた文字が見えた」
(中略)
「Please discuss it、と書いてあった」
相談するように、と。
「紙の端がこげていたけど、はっきり読めた。Please discuss itの次の行は、with Miss Kato at Fuji Bankと書いてあった。
また空から何枚ものメモ用紙が降ってきて、デッキにちらばった。アパートに入って、リビング・ルームのテレビを付けた。もうすでに二機目の飛行機が突っ込んだところだった」
生々しいコミュニケーションの痕跡。日々の営みの、唐突すぎる断絶。死体を目撃するのとは違った衝撃が、ここにはある。
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