幼い日の、婦人服の仕立て業を営む母や伯母、祖母と暮らす日常、父が知らぬ女性と一緒に暮らすために家を出て行ったときの記憶、その後の父との再会、父の死、そして大人になってからの自分の恋と別れ――。この作品に明確な物語の流れはなく、記憶と感情の断片が、錯綜し重層的に重なりあうことで、物語的な作品世界を構築してはいるが、物語そのものは分解されている。
登場するエピソードは、いずれもこの作品のタイトルどおりたわいもない、ありふれたことなのかもしれない。だが物語を分解し断片同士をコラージュするように再構築することで、まったくありふれていない、むしろ断片と断片のすき間に深淵な、ある種の運命論めいたものすら感じさせる重厚な作品に仕上がっている。本作、『岸辺のない海』『柔らかい土をふんで、』を超える、金井さんの最高傑作ではないだろうか。おすすめ。

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