現代、しかも震災後に到達したところで物語は終わる。洞窟にはじまり、鉄道とともに時間は流れ、そして洞窟とともに幕を閉じる。
マルケスの『百年の孤独』の読後感の、わけもわからず魂が震えはじめるような感覚は本作にはない。だが、じわっとした感動、平穏であることの喜び、人とともに街もまた成長していくことの喜び、は、小説だからこそ、強く感じることができる。
「物語」という形式をある程度捨ててこそ、小説の新たなスタイルは生まれるはずだ。最近のぼくの関心はそこにあり、その可能性を示してくれたのが本作、って感じかな。ここ最近では、保坂和志『朝露通信』とおなじくらい気に入った。