「群像」2016年2月号掲載。語り手は五十代くらいだろうか、女性が貧しかった幼少時代を思い出しながら語る。舞台は高度成長期の、時代の波に取り残されたようなまずしい地方都市。化学工場が敷設され、その工場長の娘に、語り手の女性は翻弄されつづけるが、彼女のように箱入りであることに、やや屈折した憧れを感じ…。
深刻なテーマかと思いきや、すべてをチャラにしてしまうようなラスト。なんだこりゃ、って感じでした。苦難と笑いを自在に行き来する感覚。その大きな運動やうねりが、この作家の持ち味の一つなのかもしれない。