わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『聖耳』

「朝の客」。祖母が他界した日の朝、古くからある屋敷の一階で遺体とともに過ごす若い男。男は障子越しに人影を見る。どうやらそれが泥棒らしい。こう書くと何やら「答えてちょーだい」あたりで再現VTRにされそうなオマヌケエピソードと思えるが、古井氏の手にかかると、これが立派な純文学になる。人の死という極限状態が、耳の感覚を麻痺させ、眼に写るものを異化してしまう。幻想なのか、妄想なのかが判別できなくなる。そんな、あいまいな場所に賊がいる。賊はそこから立ち去るしかない。葬式を準備する古い家から、そして幻想から。