わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

金井美恵子『岸辺のない海』

 主人公の身勝手な主張、現実から目を背けつつ現実の中にあえて埋没しようとするひねくれた意識と行動の連続。自分を含めたあらゆる存在の否定。ただひとつ、心のよりどころとなるのは彼女の存在だけ。しかし、その彼女からも彼は疎まれる。今風にいうと、アブナイ奴なんだろうな。ちょっと引用。

〈肉体とはぼくの世界、あるいは、世界とぼくとの間にかけ渡された不透明な壁であり、世界そのものであると同時に、世界を遮ぎる鈍重な肉質の柔らかなブヨブヨした汚らしい塊だ。それは迷路であり時間であり、宇宙大の空間であり、ぼく自身でありぼく以外のもの、たとえば、それは迷宮だ。ぼくは迷宮の中に住む孤独なミノタウロスで、同時にミノタウロスに捧げられた生贄の少年たちでもあるのだ〉
 彼はなおもこんな具合に喋りつづけていた。(後略)