表題作「未見坂」。企業の思惑と地域の暮らし。企業活動が、のんびりとした緩やかな共同体が抱える異物のように思えてしまう。しかし、その一方でそれは共同体を動かす原動力でもある。
「トンネルのおじさん」。地方に住むおじと、少年との絆。山で土を掘るふたり。掘っているものが、何かよくわからぬが別のもののように思えてくる。
緩やかな人同士のつながりを、リアリティあふれる形で描いた傑作。本作で描かれる共同体は、都会の社会構造とは明らかに違っているようでありながらも、経済活動という現代に固有のシステムをしっかり内包しているという点においては共通している。ただ、そこから生まれる、あるいはそれを脇に置くように成熟してゆく地域社会の持つ物語性が、まるで異なる。登場人物たちの暮らしぶりや生きざまは、現代の都会に住むわれわれと、近いようでいて遠い。しかし、その距離を埋めてくれる何か、湿度のようなものが本作にはたしかに存在している。
- 作者: 堀江敏幸
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