家が見つかって引っ越したら抱いて、と言われた女の物件探し、というよりは街探しに付き合うハメになった萱根。なりゆきで、死病に冒され入院した女を看取ることになる。混濁した意識の中で、女は長年返さなければと考えていたらしい針を、知り合いに返す。
冒頭で萱根が死病の友人に託されたのも、針。不思議な偶然をどう読み取るかは、すべて読者に託されている。
萱根のその後の人生に、女の死はどのように関わったのだろう。女が返したつもりになっていた針は、実は萱根が預かっているのではないか。いや、萱根はそれを預かれなかったのかもしれない。女は、萱根にこそその針を渡したかったのかもしれない。だがそれが、数十年を経て、女の代理を無意識のうちに引き受けたらしい死病の旧友の手から渡された、とは考えられないか……。
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