気晴らしに、久々に開いた。何度開いても違うおもしろさを感じる。苦笑の美学というか、珍妙なる美学というか、言語芸術による命がけのおふざけというか。「休日の夕方」という作品、ちょっと長いけど引用。何のために詩という形式で情景なり記憶なりを描写しているのかが、まるでわからなくなる。この「わからなくなる」から、新しい詩情が生まれてくる。わからんものから生まれた詩情だから、ホントに捉えどころがない。ただひとつ言えること。それは、底抜けの孤独がここにはある、ということ。
電話が鳴っているのが聞える
だが電話には出ない
それが私の行為なのだ
部屋の中にひとりで坐っている
窓の向うの壁が斜光に色を増して、幼い頃の思い出を誘っている
だが、思い出しはしない
それが私の行為なのだ
部屋の中にひとり坐って、何も見ないで目を開けていると
口先にくゆるタバコの灰が女たちの記憶を呼んでくる
友人たちの記憶が集る
だが、彼らにはこの私の頭蓋骨の外へお引きとり願って
ましてや、私は誰にも会いに行かない
私は何もしないでひとりで部屋の中に坐っている
それがわたしの行為なのだ
おお、私はいつしか眠ってしまい
あらがいようもなく夢の中にいるのだったが
私はその夢を思い出さない
- 作者: 鈴木志郎康
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1974
- メディア: ?
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 作者: 鈴木志郎康
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 1969/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
- 作者: 鈴木志郎康
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 1994/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 鈴木志郎康
- 出版社/メーカー: 書肆山田
- 発売日: 2001/09
- メディア: 単行本
- クリック: 11回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
鈴木志郎康公式サイト