わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

ルシア・ベルリン/岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書』

「いいと悪い」。父の仕事の関係でチリに移住し裕福な暮らしを送るアメリカ人の主人公、そしてブルジョアの主人公の目を貧民たちに向けさせ、自分が参加している慈善活動に無理やり参加させようとするアメリカ人の女性教師。貧民街やそこで朝の炊き出し活動などを行う団体のメンバーたちには生理的な嫌悪を抱きつつも孤児院で暮らす子どもたちには素直に好意を抱く主人公と、周囲が何も見えず自分の考えることだけが正しいと信じて貧民たちにひどい目にあわされてしまう教師の対比。世の中のすべてが罵倒と空回りとでできているのではないか、と思えるほどひどい世界が描かれているのだが、世界を正しく知ろうとはしないものの、少なくとも最後には正しく見て自分なりの判断をしようとしはじめているように思える主人公のそぶりには、本当に微かでしかないが、希望のようなものが見える。社会を変える希望ではなく、ひどい社会でも自分らしく生きていける、という、ごくごく小さな希望。だが作者は、そんなものを書こうとはしていないと思う。

 

 

 

ひみつのしつもん (単行本)

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ねにもつタイプ (ちくま文庫)

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