わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

深澤直人『デザインの輪郭』

 仕事の一環で読む本は基本的に引用しないつもりだったのだが(「購入書籍」の欄にも書いていない)、おもしろかったときだけ引用しようかな。
 環境あるいはある特定の目的で作られた道具などを、無意識のうちに、他の目的を実現する道具として使う。例えば、玄関のタイル張り。雨の日、そこに傘立てがなければ、この目地に傘の先端をはめ込むようにして置けば、傘は倒れない。この感覚をプロダクトデザイン化するのが「without thought」だ。この概念を伝えるためのワークショップは大成功だったようである。そのプログラムの内容を紹介してから、著者はユニークなアイデア哲学を書いている。引用。

「without thought」という思想と活動は、ワークショップを通じて、確かに新しいデザインの風を、デザイン界だけでなく一般の人びとの日常生活に送り込んでいる。しかし、これは何かのかたちを別のものに置き換えるような、単純なデザインの方法論ではない。確かに、慣れてくるとアイデアはどんどん見えるようになる。人びとの生活の中からヒントを見いだすことが容易にできるようにもなる。しかし反対に、慣れは、概念を見せることを目的としたものをデザインしてしまう危険性もある・アイデアのもとは消さなければいけない。デザインとは概念を見せるものではなく、まず道具に徹することである。徹することで浮かび上がる共感のもとは、人びとの日常の記憶の断片なのである。
誰もが共有する日常の行為を使って、私たちはデザインで詩を書こうとしている。あたりまえだからこそ深く、どうでもいいくらい無自覚に、からだが知っている共感の美を探そうとしているのだ。