「近代化とは、人間の身体機能や身体特徴の、あるいは身体に込めた意味の、均質化や白紙化(=身体の零度)とともにある」という三浦さんの考察が最後に行き着くのは、現代(本作が書かれた'94年現代)における最高芸術としての「舞踊」だ。現代において舞踊はその意味が変質し、そして身体の零度という概念そのものが消える。ちょっと長いが引用。
それ(=舞踊)はいまや思考のための新しいキャンバスにほかならない。そこでは、たとえば、訓練された身体と訓練されない身体とがせめぎあっているだけでも、手段としての身体と、個性としての身体、実存としての身体とがせめぎあっているだけでも、産業的身体と、農耕的あるいは優牧笛身体とがせめぎあっているだけでもない。芸術的、表現行為そのものへの問いが問われているのである。
表現とは人毛の病のようなものだ。世界はすべてあるがままだが、人はその後に意図を見出そうとする。人間が表現を獲得したとき、世界もまた表現を帯びたのだ。こうして、表情のすべて、身ぶりのすべて、人生のすべてを表現と見なす流儀が登場するが、しかし舞踊は一回限りの生身の身体を人前にさらすことによって、この流儀の構造を一目瞭然のものとするのである。そして、ときにはみごとな演技によって、その構造を一挙に解体してしまいさえする。
燃えあがる制の一瞬の前では、芸術も表現も、雲散霧消してしまう。そこでは身体の零度という理念そのものが無効になってしまうのである。
この、現代舞踊の先頭を(当時)走っている(走っていた)舞踏家として、イリ・キリアンとピナ・バウシュの名を挙げている。
思想の世界においては、ともすれば、その重要性は指摘されつつも、ついないがしろにされがちだった「身体/肉体」という存在にスポットを当てることで、逆説的に(って言っていいのかな…)人間の本質、精神性、社会性、そして「歴史」を語ろうとした意欲作だと思う。舞踊や体育、スポーツに興味がない人にこそ読むべき。うん。
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イリ・キリアンの作品はこちら。実はよく知らないので、見てみようと思う。
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