保護したムササビの世話をつづけ、春になって野に帰したその瞬間、幸福感に包まれながらも男は心のどこかで何かに裏切られたような違和感を覚えて…。そして男は終の住み処に選んだ温泉地、伊豆の観光開発に反対し、勝利したにも関わらず、絶望したまま、その生涯を終える。
と、この一連の流れは非常につらいものがあるはずのだが、文体が淡々としているので客観的に読めてしまい、全然感情移入できない、というか、しようと思わない。
そして男から物語のバトンを受け継ぐように、戦中に犬とともに家出をした少女の成長した姿が登場。主人公のいない作品はこういう展開ができるところがおもしろい。