「群像」 2020年8月号掲載。
語り手の「ぼく」、画家の母、食品関連の仕事をしているらしい妹、その夫で「ゴッホの家計簿」らしきものの翻訳を依頼した河島の孫(なのかな)の海一とランチを楽しんでいる。食卓に並んだ手づくりパンは「ゴッホの耳」と名づけられ、母が一時保護している犬は、妹に「ゴッホ」という名前を付けられそうになっている。おかしな感じに状況がタイトルへと近づいていくのだが、肝心の「ゴッホの家計簿」の解明のほうはなかなか進まない。使用されていたらしいインクの匂いが手がかりになりそうなのだが…。
美術史という学問をベースにしている作品なのに、こうしたシーンが挟まれているのでとてもイキイキとしていて、楽しく読める。スリルはないが謎解きの要素もある。新しいエンタメ小説のカタチ…ではないかな。これは、誰にもマネできない。