わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

ルシア・ベルリン/岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書』

「苦しみの殿堂」。メキシコでガンに犯され余命幾ばくもない妹。かつては裕福だったが世界恐慌などによってたちまち没落し貧しい生活を強いられ、会うメキシコ人すべてを罵倒するなど、とんでもなく素行が悪くなった母。そして(本作では書かれていないがおそらくは母と同等の苦しい生活をした経験のある)母も妹もこよなく愛するが、一方で、彼女たちに苛立ちや憎しみに似た(そのものではない、もっと複雑でやっかいな)感情を抱きつづける「私」。「私」の視点から、この三人の生活や記憶が、複雑な、入り組んだ流れで語られていく。だが三人に共通する「孤独」が、巧みにバラバラの物語を繋ぎ合わせ、ひとつの流れ、というか、世界観、をつくりあげていく。不思議な魅力をもった作品。読後に改めてタイトルの「苦しみの殿堂」について考えてみると、これがたんなる皮肉めいた冗談や怒りの感情ではなく、複雑ゆえに深い、底の見えない愛情のようなものに(愛情そのものではないのだ、決して)満ちていることに気づく。

 

 

 

 

ひみつのしつもん (単行本)

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なんらかの事情 (ちくま文庫)

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