六時起床。朝から気温が上がっているのか、汗でパジャマが濡れ布巾のようになっている。風呂で汗を洗い流していたら花子が見に来た。最近は、何かと猫に行動を見られることが多い。困るだの恥ずかしいだのというわけではないが、日常の何気ない行為を観察されると、相手が猫とはいえ調子が狂う。
七時、事務所へ。某大学入学案内、筆記具メーカー広告など。
十三時、小石川のL社へ。広々とした森のような庭のあるお屋敷が次々と潰されマンションになっている西荻では蝉の声もまばらになってしまったが、小石川は立派な桜並木や植物園があるせいか、元気、いややかましいほどである。ミンミンミンと鳴くあの声は、アスファルトの照り返しを五、六倍は増幅させているのではないかと馬鹿馬鹿しい訝りを感じてしまう。聞こえなければ寂しいが、聞こえればやかましい、暑苦しいと感じてしまうとは、ニンゲンとはまた勝手なものだ。もっとも、蝉も鳴かない土地には住みたくないとも思う。
八時起床。駅周辺は熱気が篭ったままよどんでいるようだが、自宅に近づくにつれ東からの涼しげな風が心地よく感じるようになってきた。しかし、自宅で東に面したリビングの窓を大きく開けてもどういうわけかこの東風が入ってこない。向かいの戸建てが邪魔しているのか。それとも間が悪いことに吹きやんだのか。夕涼みの心地よさを感じた数日前がうそのように感じられた。
夜、花子と麦次郎に新しい猫じゃらしを下ろしてやった。花子、目の前で降ってやると中腰で合掌した手を上下に振るようにして猫じゃらしを捕まえようとする。猫じゃらしを床を這うように動かしてみると、後を追って駆けずり回った。正しい遊び方だ。しかし、ちょっとするとすぐに飽きてしまった。猫じゃらしの房の方をくわえ、フウーン、フウーンと欲求不満そうな鳴き声を漏らしながら書斎と廊下をうろつきはじめた。わかった、わかった。花子がいちばん好きな猫じゃらし遊びをしてやった。ぽーんと猫じゃらしを放り投げて、それを花子がキャッチしてこちらまで持ってきてくれる「取ってこい遊び」である。ところが花子、キャッチした猫じゃらしを必ず途中でポトリと落とす。そしてぼくの顔を覗き込んで、またもやフウーン、フウーンと欲求不満そうな鳴き声を漏らしはじめるのだ。投げ方が気に入らないのか、もっと派手な遊びをしてほしいのか。猫の気持ちがよくわからない。
金井美恵子『タマや』。うまいなあ、と何度もため息をつきながら読み進めた。