わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

村上春樹『海辺のカフカ』読了

 現代のオイディプス神話。ひとりの少年が喜怒哀楽を取り戻すまでの物語。絶対的な宿命と意志による変更が可能な運命との交差点を描いた物語。ひとりの少年が大人になる決心をする物語。死の意味についての物語。魂の開放とは何かについて考えた物語。と、いくらでも読み替えが可能な多重的なテーマを持った作品。逆に言えば、どのテーマも徹底的に追求しきれていないということになる。結論を避けるというのは村上の常套手段だが、本作でもそれは同様。もっとも、歴史にも人生にも結論はない。結論(あるいは意味、意義)とは、(それがニンゲンであれ他のドウブツであれ非生命体であれ概念であれ)、その存在が死、あるいは消滅したことが他者によって認められた時点ではじめて生まれるものだ。ならばその過程で、とんでもない大回りをしようとショートカットをしようと本質的にはおなじなのだ。