更年期をテーマに落語調の文体で語っている。とぎすまされた言葉とリズムは明らかに「詩」なのだが、イメージに埋没せず(『とげ抜き』も若いころの作品も、現実のようであってもイメージの世界で展開されている感覚というか、一歩距離を置いた感覚というか、そんなものが明らかに存在するので)、五十を過ぎた熟女の肉体で、どでーんと人生ってヤツに体当たりする姿勢は、「詩」で語られるべき世界(というか、ねーさんが今までの詩で語っていた世界)とは、似て非なり、って感じがするんだけど、どーなんでしょね。
一章目「卯月--ふうふのせっくす」。更年期ウンヌンよりは、タイトルどおり夫婦のセックスについてが、人生相談を連載している詩人のおばさん「伊藤しろみ」の言葉として語られる。
正直驚きましたぜ、ねーさん。セックスについて、言葉を隠したりまわりくどい言い換えをしたりせず、あっけらかんと表現するという姿勢は明らかに伊藤比呂美のものなのだが、先にも書いたけど書いてある内容が、ね。恋愛も結婚も出産も離婚も介護も経験した人生の達人による人生相談が軸になっている、と書くとさぞかし深い内容なんでしょね、と思えるし、たしかに夫婦におけるセックスの重要性を説くしろみさんの言葉、そのひとつひとつは重いのだが、作品全体の印象として、うわ、青臭い、と思ってしまった。しろみさんの言葉が青臭いのではなく、書かれた内容が青臭いのでもない。文学に携わる者の姿勢として、あるいは詩人として取り上げるテーマとして、あまりにも、あまりにも、若すぎる、と思ってしまったのだ。人生の悩みについて、書く。これこそ文学の基本であるのだが、近代にあらゆる手法でこのテーマが語り尽くされてしまった結果、二十世紀、二十一世紀の小説家や詩人はとんでもない苦労を強いられ、その結果、人生の悩みというものをストレートには書かないことによって書く、というねじくれたやり方が百花繚乱、というのが現代文学の状況なのだと思っているのだが、近年はそうでもない、うわ、愚直すぎるほどストレートに自分の思うことを書いているなあ、という作家や詩人が少しずつ増えつつあるような、と日々感じ、これがメインストリームになると文学は退化したことになっちまうのではないか、と危惧もしていたのだが、そこで本作の登場だ。落語調、という手法を用いてはいるが、書かれていることはホントにストレートで、深読み裏読みしたほうがいいかな、と一瞬思ってみるものの、いや、これは直球が投げられたのだが、フルスイングで打ち返すべきだ、というか、そういう姿勢で読むべきだ、と判断。読めば読むほど(って、まだ一章しか読んでないが)、直球という姿勢に、高校球児みたいな青臭さを感じてしまうのだ。大ベテランが、あえて青臭い書き方を選ぶ。これってスゴいことだと思うのだが。少なくとも、読んでいて文学の方向性についての不安は感じない。今のところ。
明日は二章目。さあ、こういう読み方をつづけていいのかどうか。
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