ポッドキャストで配信されていた朗読データをiPodで、3倍速にして聴いている。速聴ってヤツですな。
限りなく私小説的、というよりはエッセイ的な内容。他愛もない日常ばかりがつづられるが、そこに現れる漱石らしき主人公の喜怒哀楽の隙間に、虚無的で孤独的な暗い穴ぼこのようなものがときおりチラリと見える……。
漱石は孤独だったんだと思う。交友関係は広かったようだが。その性格がもっともよく現れているのが『坊っちゃん』。主人公は、他者とコミュニケーションする能力が絶対的に欠けている。そんな自分をなんとも思わずに人と交流しつづければ、いつかはそのことに気づき、気づけば次第に、他者との能動的な交流を避けはじめ、受け身の社交となるのだろう。『坊っちゃん』とは、そうなりかけた人間の、こぼれ落ちる寸前の悲しさを描いた小説、とも読める。だとすれば本作は、欠落に気づいた跡の、受け身の社交の悲しさを描いた小説……なのかもしれない。