わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

大江健三郎『水死』

 第七章「余波は続く」。妻・千樫がガンで入院となり、長年看護師をしていた妹・アサは千樫を世話するために東京へ。そして古義人となお不仲状態にある息子のアカリの二人は、アサと入れ替わるようにして故郷・四国にある「森の家」の中へ。
 これまでの大江作品の多くは、外部から襲ってきた脅威なりトラブルなりに立ち向かうことで主人公や家族が恢復する過程を描くことが多かったが、本作は内部からトラブルが発生してしまっている。物語のエンジンが今までと違うのだから、全体の流れもなんとなく違っているように読める。全体を色濃く支配しているのは、ある種の絶望の感覚だ。文体は平易で比較的軽いし物語の要素要素は大きく動くものが多いのだが、そのすべての要素が、内部に停滞のようなものを内包している。

水死 (100周年書き下ろし)

水死 (100周年書き下ろし)


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