「ファントム・ペイン」。父の認知症の経緯を、感傷的になることなく淡々と描写した短篇。ラストで、父、看護師、膝から下を切断したファントム・ペイン(幻覚の痛み)に苦しむ糖尿病患者、そして主人公であり認知症の父の娘であるルーらは、ピクニックに出かける。身勝手な行動、狂乱、失禁と、ひどい状況のオンパレード。父はルーを認識できず、実の娘に虐げられているというニセの記憶を持っている。だが、ラストに一瞬記憶を取り戻した父は、坂の上で車椅子のストッパーをおもむろに解除する。なぜ彼はそうしたのか。その後のルーの反応は、一体どういうことなのか。よくわからないのに、腑に落ちる。それが、老いることの、老いる人を見守ることの、悲しさの本質なのかもしれない。そんなことを思わせる秀作。