「群像」2020年6月号掲載。先日、NHKの猫番組に保坂和志とこの作品に登場する「シロちゃん」が出演するドキュメンタリーを放送していた。現実とどこまでリンクしているのだろう。
猫の死の記憶が、次々と思い出されていく。『未明の闘争』のラストもこんな感じだった。何度となく猫たちの死を見届けてきた語り手が、猫の死に際に直面した際に感じたらしい、ちょっと切ない真理を語っている。引用。
(前略)別れを悟っているからもう戻ってくるように呼びかけず、ただ名前を呼ぶか感謝の言葉を言うかして猫を安心させる、別れることがはっきりした相手に、それでもなお戻ってこいとは言わないということが、生きることが死ぬことよりも無条件に、絶対的に、いいわけではないことをあらわしている、命は、生きる時には生きることが善で、死ぬ時には死ぬことが善なのだ。